言行一致が求められるESG、コロナに石炭

個々の企業の意のままでは改善が難しい「E:環境(Environment)」、「S:社会(Social)」、「G:企業統治(Governance)」の3つの観点をマネーの力で変えていこうとするESGは勢いが増しています。
企業サイドにはESGへの取組みの方針と行動が求められています。投資サイドにはESGの観点からの企業評価に基づく投資が求められています。相互の利害をESGに向かわせることによるあらたなマネーの潮流が世界的に広がりをみせています。

新型コロナウイルスの感染拡大にともない、雇用を守るなどの「S」の観点が直近では重視されてきました。
人の移動が減り経済活動が停滞するこの禍のもとでは「E」が疎かになるかとおもいきや、熱さを増しています。

後日談5/26:
日経新聞5/26のフィナンシャルタイムズ紙転載コラム『コロナ、脱炭素推進の好機に』によれば、航空機や鉄道、自動車を放棄しても、パリ協定の1.5度目標には全く足りないことが皮肉にもこのコロナ・ショックで明らかになったと述べます。資源価格が下落した今こそ炭素税導入の好機ではないかととなえてます。

 




米JPモルガンは言行一致を求められる

「株主第一主義」からの脱却を米国主要企業が参画するビジネス・ラウンドテーブルで昨年8月に掲げられました。株主を含めた全てのステークホルダーの便益に配慮しなければ持続的な成長はありえません。至極まっとうな考え方ですが、唐突な感がある宣言でした。今年1月のダボス会議でもテーマにあげられるなど、その後もポツポツと報道されています。その宣言を主導したのが米金融大手JPモルガン・チェースのダイモンCEOだといわれます。この2月にはJPモルガンは、石炭産業への新規融資を停止すると発表し、環境問題への取り組みをアピールしました。ESG投資に先鋭的な企業のイメージを与えました。

ところが、日経新聞5/21『米JPモルガン ESGに揺れる』によれば、言行一致が求められています。気候変動対策を促す株主提案に、JPモルガンは他の株主に反対するよう呼びかけたことが批判となっています。株主提案は非営利団体(NPO)アズ・ユー・ソウが提出したもので、融資先の選別などを通じてパリ協定の目標達成にどう貢献するのか、具体的な計画を公表するようJPモルガンは求められていました。
結局は株主総会でこの提案は否決されたものの、ESGを重視する公的年金の米カリフォルニア州職員退職年金基金やカリフォルニア州教員退職年金基金の賛同をえて、議決権行使全体の49.6%が賛成票だったとのことです。NPOの提案に半分近い賛成が集まるのは異例であったようです。他の欧米金融大手に比べて取り組みが不十分とみられているようです。

3メガ銀も「石炭」がネックに

日本にとっては石炭は分が悪い分野です。昨年12月にスペイン・マドリードで開催されたCOP25(気候変動枠組み条約締約国会合)では、小泉環境大臣が石炭火力発電からの脱却を表明しなかったことで、環境対策に消極的だとして「化石賞」を授かっています。蒸し焼き石炭ガス化など「低炭素」技術を、安価なエネルギーを求める新興国などに売り出していきたい日本ですが、もはや「脱炭素」でないと受け入れられない情勢です。

日経新聞4/28『3メガ銀、ESGシフト 物言うNGO株主を意識』によれば、コロナ禍真っただ中のこの4月に3メガ銀は脱炭素に向けた動きをみせました。みずほフィナンシャルグループは石炭火力発電事業への新規融資をやめる方針を示しました。三井住友FGは新設炭素火力は支援しないと明言しました。三菱UFJFGも見直しに動くとの観測が浮上しているようです。

グリーンディール(気候変動対策)を強化するEUでは、当記事によれば銀行規制に環境の要素を取り入れようとしています。環境保護に資する事業・資産(グリーン)と環境破壊につながるもの(ブラウン)を分類する「タクソノミー」を銀行の自己資本比率規制に取り入れ、投融資をグリーンに誘導する考えが浮上しているとのことです。3メガ銀が動きを早める背景となっているようです。

 

まとめ

ESGスコアで銘柄選びをするのが個人投資家にとっても一般的になっていくのでしょうか。物言う株主の声の大きさに歪められている感もあるESG投資ですが、企業にとってはもはや理念を掲げるだけでは通用しない情勢です。