PBR長期トレンドと東証「プライム」創設

ここのところPBR(株価純資産倍率)の長期トレンドに関わる記事が日経新聞で立て続けに出て興味深いです。




PBR(株価純資産倍率)

まず、株価を評価するうえで大事な指標として次の3つがあります。
PER(株価収益率)=株価÷1株あたり純利益
ROE(自己資本利益率)=純利益÷純資産
PBR(株価純資産倍率)=株価÷1株あたり純資産

この中で最もなじみがあるのがPERでしょう。株価は違えどPERの順に銘柄を並べれば値ごろ感がわかったりします。「PERが低いから株価が割安」なんて騒がれて買いが押し寄せたりします。いわば投資家の人気の度合いを示す指標です。
ROEは財務諸表に現れる数字です。日々の株式市場の動きに連動するわけでチャートばかり追いかけているとなじみが薄いのかもしれません。でも、株主から預かった資金でどれほど利益を生み出せているか、すなわち企業の実力を示す大切な財務指標です。

 

さてPBRが意味するところはなかなか捉えがたいです。日経新聞の記事でPBRが登場するのは「解散価値である1倍割れ」と対で語られるケースがほとんどです。1倍割れとは投資した額より株価が低い状態なので、いわば投資家の立場にたつと「企業をつぶして換金したほうがお得」だといえます。しかし、個々の投資家とすれば株式を購入したタイミングはまちまちなので一様にお得とはいえません。というわけで「PERをみてればPBRなんて気にしなくていいじゃん」って感覚になりがちです。

目先を変えて以下の関係式を覚えるとPBRが意味するところがしっくりくるかもしれません。

PBR=PER×ROE

さらにこの式をこう置き換えます。
PBR=PER×企業の実力

いうなればPERが投資家目線に偏った「人気」を示す指標であるのに対し、それに「企業の実力」も加味した指標がPBRです。

 

現状ではPERは投資指標としての使い勝手が悪化しています。コロナ禍で純利益が目減りしているのに金融緩和でマネーが流れ入る傾向(分母が減り分子が増す)にあるので、多くの銘柄でPERが企業の実態との乖離が増しています。
人気ばかりが先行して実力に見合っているのだろうか?

PBRに注目が集まるのは必然の流れです。

 

PBRの長期トレンド

これから挙げる3つの記事はどちらも20年以上の期間を俯瞰したものです。

記事1:『日本株の「夜」は明けたか』(日経新聞12/25)

1995年以降の日経平均とそのPBR1倍水準が折れ線グラフになっています。それによると2008年頃まではPBR1倍水準が10,000円以下で停滞していましたが、その後は上向きで現在は20,000円を超えています。日経平均は20,000円あたりからはじまり2008~2010年の頃はPBR1倍水準を繰り返しクロスしたのち、PBR1倍水準に連動するかたちで上昇しています。現在の日経平均は2万7,000円のすぐ近くまで到達して約29年来の高値です。記事内では「株式持ち合いが崩れ、ガバナンス改革で資本効率を高める経営意識に変わった」との識者のコメントが出てきます。このグラフから読み取れるのは、バブル期と同じレベルの株価水準であっても、企業の収益性の裏付けがともなっているようにみえます。もっとも、記事でも触れているように、日銀によるETF買いでゆがんだ市場構造になっているので容易には楽観できません。

記事2:『市場が映す企業の浮沈』(日経新聞12/21)

ダウ平均採用の顔ぶれが過去20年で大きく変わっているのに日本株の主役は変わっていないことを示唆する記事です。経団連の正副会長を輩出した企業19社(経団連銘柄とここでは呼ばれる)のPBRがグラフになっています。経団連銘柄のPBRの平均は0.75倍で12社が解散価値を割り込んでいます。最高がコマツの1.46倍に留まります。19社中、純粋な戦後生まれはANAHDただ1社で、それとて1952年の創業とのことです。一方、ダウ平均はマイクロソフトやウォルマートなど戦後生まれが半数近く占めているといいます。日本の産業社会の新陳代謝の不足が見え隠れします。

記事3:『コロナが促す企業選別』(日経新聞12/27)

日米欧中でPBRを高い順に並べて上位20%の企業のPBRを下位20%の企業のPBR(ともに中央値)で割った値を縦軸として2000年来の推移をグラフとしています。グラフによれば今年2020年にどの国も跳ね上がり、2000年のITバブル以来の高水準となっています。つまり株価指数が歴史的な高値をつける中、IT銘柄など突出した業績を上げる企業が伸びる一方で定位銘柄が降りちぎられている様子がうかがえます。
日本はどの時期をみても米欧中比べて定位にあります。デジタル化などの構造変化に対応を急がないと各国との差がさらに開けられそうなことを示唆しています。

 

まとめ

東証は12/25に、2022年4月に東証1部を廃止し、新たに「プライム」など3市場を開設すると発表しました。その前後なのでPBRに着目した記事が増えているのかもしれません。
記事1では企業の収益性改善が株価上昇に寄与しているようにみえ良い傾向ですが、記事3と見比べると米欧中には見劣りします。記事2と3によると日本市場の新陳代謝の不足があらわで、プライム市場の創設を後押ししているかのようです。