政策金利マイナス、トランプ大統領がつぶやく『ギフト』

政策金利をめぐる市場でのうわさは放ってはおけません。。

 

ちょうど1年前の5月下旬も政策金利のうわさで揺れました。米国の政策金利の引下げです。2018年から続く米中の制裁関税合戦が「第4弾」の検討に入り地合いが悪化し、打開策として利下げの観測が浮上しました。

リーマンショックから立ち直りようやく2.5%まで引き上げられた金利をやすやすと下げられるのか?最初は疑心暗鬼で報道を眺めていました。

でも結局は「予防的処置」と称して7月にはFOMCが利下げに踏み切ります。以降2回の利下げをへて株式相場は秋口から漸く立ち直りました。いまにしておもえば株式相場はバブルです。

そしてこのコロナ危機はバブルを破裂させました。今年3月には2回の緊急利下げにより、あっけなく2015年末来のゼロ金利(0.25%)に戻ってしまいました。昨年後半のバブルがなければ、この歴史的困難はもう少し穏やかだったかもしれません。。




現在、にわかに政策金利のマイナス導入が囁かれています。現状の米国では中央銀行が強く否定していますが、昨年の米利下げ騒動が思い出され見過ごすわけにはいきません。

政策金利マイナス、各国で導入の動き

5/22日経新聞1面『マイナス金利 政策論議再び』によれば、米国の市場でもマイナス金利突入を見越した動きが加速しています。トランプ大統領5/12、「他の国がマイナス金利の利点を得ているなら米国もその『ギフト』を受け取るべきだ」とツイッターに書き込んだと当記事は伝えます。

EU離脱をこの秋に控える英国でもマイナス政策金利導入の動きです。日経新聞5/21『英国債マイナス金利』によれば、英国では5/20に3年債利回りがマイナス0.003%をつけました。期間が1年を超える中長期債で発行金利がマイナスになるのははじめてとのことです。背景には、新型コロナウイルスによる景気刺激策の一環として、マイナス金利政策が採用される可能性が広がっていることがあるようです。
新型コロナの封じ込めの優等生ともいえるニュージーランドでも、マイナス金利の導入検討に入ったことを明らかにしています(日経新聞5/14『NZ中銀、量的緩和を拡大 マイナス金利「選択肢」』)。

 

利払い費の圧縮効果

欧州中央銀行(ECB)では2014年に、日銀では2016年に採用されたマイナス金利政策は、景気刺激策として成果をあげているとはいいがたいです。企業にとっては低金利で恩恵をこうむるものの、市中銀行では利ザヤが縮み減収に苦しみ副作用ばかりが目立っています。
それでも現在あらためてマイナス金利が注視されるのは、新型コロナウイルス感染拡大にともなう未曽有の財政出動があるからです。
日経新聞5/29『金融緩和支え 国債大増発』では、マイナス金利による利払い費の圧縮効果にふれています。日本では第二次補正予算が決まり、国債発行残高がはじめて1,000兆円を超えるとのことです。ただ、補正予算で市中に発行される国債の7割は短期国債で、その利回りはマイナス圏に沈んでいるため利払い費は増えない見通しとのことです。
当記事には利払い費の2000年度からの推移がグラフとなっています。20年前は10兆円を超えていた利払い費も金利低下で2018年度には7.8兆円まで減少しており、マイナス金利の効果が読み取れます。

 

まとめ

政府の財政赤字を中央銀行が穴埋めする「財政ファイナンス」は禁じてとされています。それを許すと国債は政府の都合でいくらでも発行でき、ハイパーインフレを起こしかねません。政府から発行された国債を市中銀行を介して中央銀行が買い取っていることで、現状はギリギリのところで財政ファイナンスではないとされています。
マイナス金利政策による利払い費圧縮は、財政ファイナンスにさらに一歩近づくものだといえます。

トランプ大統領が『ギフト』と称するものは利払い費の圧縮です。日本で先行する危ういやり方を、各国が追いかけようとしています。

 

後日談6/13:
6/9〜10の米FOMCではマイナス金利を主張する参加者は皆無だったようです(日経新聞6/13『米、消えぬマイナス金利論 デフレ圧力で再燃も』)。銀行の経営悪化の副作用以外にも、米国特有の事情として個人資産の預け先が貯金中心の日欧と違い、MMFが広く利用されていることも大きいようです(日経新聞6/13『FRBのパウエルさん、マイナス金利に反対のワケ』)。